NPO法人 緑区子どもサポートセンター
   第49号 平成27年4月

中学・高校生の現状とその背景



中学・高校生の現状とその背景 今回は、中学生・高校生の現状とその背景について、
特定非営利活動法人子ども劇場千葉県センターのチャイルドライン千葉担当理事の白鳥みゆきさんより、
お話を伺いました。
(土井)

チャイルドラインとは チャイルドラインは一八歳までの子どもなら誰でもかけられる、子ども専用電話です。
電話の受け手は、三〇時間以上の研修を積んだボランティア。
子どもは匿名でかけられ、個人のひみつは守られるため、安心して話すことができます。
チャイルドラインは、問題の解決を目的とした相談電話ではなく、傾聴電話です。
受け手は、子どもの話にじっくり耳を傾け、辛さ、寂しさ、不安、喜びといった気持ちに寄り添い、
共感的に聴くことを大切にしています。
指導や指示はしません。子ども自身で解決の一歩が踏み出せるよう一緒に考えます。
どこからでもかけられ、安心して話せる心の居場所の一つとして活動しています。
また、チャイルドラインでは、子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)を基盤にしています。
「子どもにとっての最善の利益」を第一に考えて、子どもの話を聴いています。
チャイルドラインの歴史 一九七〇年代に北欧で、子どもをサポートするためのホットラインが誕生しました。
その後、二四時間フリーダイヤルで運営するチャイルドラインが、イギリスで始まりました。
日本では、一九九八年に開始されました。
千葉県では、子ども劇場千葉県センターの事業として、チャイルドライン千葉を運営しています。
二〇〇九年からは、全国統一フリーダイヤルが実施され、
子どもたちは電話代を気にしないでかけてくることができるようになりました。
現在、四十二都道府県、 七十一団体が月 土曜日 の午後四時から九時まで 開設しています。

子どもの声から見えてくるもの

チャイルドラインには、ひっきりなしに電話がかかってきます。
時には三〇分を超える電話や、泣きながらかけてくる電話もあります。
無言や試しにかけてみたというものもありますが、私たちはこれも子どもの表現の一つとして大事にしています。
どんな電話も真摯に受け止めることで、子どもとの信頼関係を築いていくようにしています。
電話の内容は、学校生活や友人関係に関すること、進路や自分に関すること、
家族関係や社会状況に関することなど多岐にわたります。
楽しいことや嬉しいことよりも、悲しかったこと、辛かったこと、苦しいことなどが目立ちます。
子どもたちの声からは、大人の都合でつくられた便利な生活や大人社会の価値観が、
子どもたちの生きにくさにつながっていることに気づかされます。
チャイルドラインに寄せられる声から、子どもたちの現状とその背景について考えてみたいと思います。

狭い世界観

 携帯電話やスマホでのつながりを重要視している反面、窮屈さも感じているようです。
子どもたちは、「自分を素直に出すのは自己チューだから」と自分を抑え、
「グループから外れないように」と言いたいことを言わないなど、必要以上に気を遣って過ごしています。
それはLINE(ライン)での関係の複雑さにも表れています。
自分はどう見られているのだろう。
自分を出したら嫌われそう。
一人ぼっちだと思われたくない…。
不安な気持ちが見え隠れしています。

 失敗体験をする場や機会が少なかったためか、自分に自信が持てず、周りの評価が気になって、
思っていることを自由に出せないことがあるように思います。
チャイルドラインでは「私は私でいい」と思えるようになった時、ホッとした声が返ってきます。
コミュニケーションが苦手といわれる子どもたちですが、ありのままを受け止める存在が身近にあれば、
話したい気持ちを持っているのです。
自己尊重感情が育つような大人のかかわり、
ほっとする言葉や居場所を子どもの周りに用意することが大切だと思います。
逃げ場のなさ 「親の期待を裏切りたくない」と自分を追い込み、苦しんでいる子どもが多くいます。
限られた人間関係の中では逃げ場がなく、相談する人も見つかりません。
そして、事態が深刻化していきます。
背景には、多様な考え方や知恵に触れる機会が少なくなっていることがあると思います。
親でも先生でもない、おじさんおばさんお兄さんお姉さんなど地域の様々な大人との触れ合いが減っているのです。
さらに、核家族や少子化の影響もあります。
必要以上に親の目が届きすぎることも、子どもたちから逃げ場を奪っていると言えます。

 物事には解決する手立てが必ずあるということを、豊かな人間関係の中で、
体験しながら学んでいける社会でありたいと思います。

あふれる性の情報

 チャイルドラインでは、性に関する悩みの電話が多くかかってきます。
性に関する情報があふれている一方で、正しい知識が不足しており、
深刻な悩みを抱えている子どもがたくさんいます。
以前は持ち物にアダルト本を見つけて、親も「あぁ、そんな年頃になったのか」と認識し、アドバイスもできました。
しかし、便利なインターネットやスマホの普及により、子どもの現状が見えなくなってしまっています。
利益優先の社会の中で、子どもたちが消費者にされ、正しい知識が不足している上に、
興味をそそられる情報が氾濫しています。
望まない妊娠で、大人になりきれないまま親になる現実もあります。
これは、将来の虐待につながる可能性もあります。
「性」は「生」、命であることを彼らはいつ学ぶのでしょう。
年齢に応じた性教育を教育現場に取り入れてほしいと願っています。

経済的困難

 新たな課題として、六人に一人といわれる子どもの貧困があります。
経済的な困難は、子どもを取り巻く環境や未来を大きく変えてしまいます。
希望の進路をあきらめるという子や、ネグレクトを疑う状況に置かれている子どももいます。
入学費用の心配、塾に行きたいけれど親に負担をかけられない等、
家族や親には心配をかけたくないという思いを持っています。
周りの多くの大人は、その子が経済的に困難な状況にいることに気づいていないかもしれません。
制度が整ってきたとはいえ、知識不足から援助がとどいていない現状があります。
社会的にも孤立しがちな一人親家庭に、国や地方自治体の支援情報を子どもの目線で届けてほしいと思います。
周りの大人にお願いしたいこと まず、大人が心のゆとりを持ち、寄り添って話を聴いてほしいと思います。
だれか一人でも「助けて」と言える相手を持っていれば、
心のよりどころとして状況を変えていけることもあるからです。
現代の子どもたちが生きている社会は、大人の子ども時代とはあまりに違っています。
そのため、経験したことが重ならない部分も多くあります。
今の子どもたちを取り巻く現状と背景をわかって、理解を深めていくことも必要になると思います。
状況をすぐに変えることはできませんが、子どもの思いに寄り添い、受けとめてください。
そして、子どもが持っている力を信じ、心を離さず見守ってほしいのです。
また、忙しすぎる子どもたちに、何もしないという自由な時間を持つことも、認めてほしいと思っています。
子ども劇場千葉県センターの傾聴事業には、
子育て中のママ・パパや養育者の声を聴くママパパラインちばもあります。
親支援は子ども支援につながります。
チャイルドライン同様、多くの方に知って利用していただきたいと願っています。
私たちは子どもたちの声を聴いた責任として、また、子どもの代弁者として、
子どもを取り巻く社会的な課題を明らかにしていきたいと思います。
そして、子どもの主体性を尊重したより豊かな環境を作るために、これからも社会に発信していきたいと思います。