NPO法人 緑区子どもサポートセンター
   第40号 平成24年 12月

思春期の子どもの現状と向き合い方

                     スクールカウンセラー 福岡朋行


11月29日、船橋で「チャイルドライン千葉」の研修会が行なわれました。

講師の福岡朋行さんは千葉県・千葉市の公立中学校のスクールカウンセラーとしてて勤務している他、
八年前より「フリースペースPIEDE」を開設されています。
「フリースペースPIEDE」は学校に行っていない中高生の居場所で、
週二日おしゃべりをしたり、散歩に出かけて身体を動かしたり、自由な時間を過ごします。
旅行に行ったり、映画、海水浴、スポーツ観戦などみんなで計画をして活動することもあります。
福岡さんは思春期の中高生には家庭以外の人間関係がとても大切であると考え、
ひとりで家にいるなら居場所にお出でよ!と呼びかけています。

今回はその内容をお届けしたいと思います。



アニメの登場人物に似ているカウンセラーの存在

カウンセラーの仕事はアニメの登場人物に似ています。
訪問カウンセラーは『ドラエモン』のような存在です。
ドラエモンはのび太くんの家族じゃないけれど、両親も家族のように受け入れてくれて、
一緒にゲームをしたり仲良くなります。でも、のび太くんに便利な道具を出すだけじゃなく、
いつも「のび太くん、それでいいのか?」と問いかけます。
精神科のカウンセラーは「ちびまる子ちゃん」のおじいちゃん・友蔵のような存在です。
まる子はうまくいかないことがあると、すぐに「おじいちゃ〜ん!」と言って甘えてしまいます。
友蔵はまる子に共感したり、一緒に悩んだりしてまる子を見守ります。
このように、アニメの中の登場人物はカウンセラーの存在ととても似ているのです。


思い悩む思春期の日々

思春期前半、子どもたちは自分は男である・自分は女である、あるいは、
女子と男子の身体は違うということを自覚し始めます。
生理があり、体から血液が出るという現実と向き合う女子と比べて、
男子の場合は個人にゆだねられることが多いため非常に思い悩むことになります。
以前に比べ、インターネットなどあらゆる情報がいとも簡単に手に入り、
その内容はほとんど規制されていないため、何が正しい情報なのかわからなくなってしまい、
時にはとんでもない行動をとってしまうことになるのです。


変わってきた思春期の人間関係

十歳前後の子どもたちはギャングエイジと呼ばれ、
同じ年頃の仲間でグループになり、徒党を組んで色んな体験を重ねていきます。
この時代は親同士の仲がよかったり、一緒のサッカーチームに所属していたりと
共通点・類似点で同一行動をしていることが多いのですが、
この体験が家庭からの心理的分離の第一歩であり、この時期を十分に楽しんで過ごすことが重要になります。
群れる体験というのは、自分の順位を知ることでもあるのです。
しかし、最近はこのギャングエイジの様子も変わってきています。
「公園で、〇〇ちゃんと遊んでくるね〜!」と家を出て行っても、
様子を見に行くと男の子たちがそれぞれのゲームに夢中になっていたりします。
一緒にいても群れていないのです。

ギャングエイジを過ぎた子どもたちはチヤムグループへと移行していきます。
共通な趣味や好きなものが一緒の仲良しグループになっていきます。
例えばAKBが好きとか、アニメに関心があるとか、
同じ価値観の仲良しグループなので、いろいろ説明しなくても分かり合えたりします。
この時期は、アイドルになりたいとか、将来はプロ野球選手になりたい!サッカー選手になる!などの夢を持っています。
しかし、中3ぐらいの子どもたちに将来の夢を聞くと、
「公務員」「サラリーマン」「大工」など現実的な返事が返ってくるようになります。
等身大の自分、私は誰なのかという一貫した感覚を持ち始めるのです。

チヤムグループを過ぎると今度はピアグループへと移行していきます。
同じ価値観で、何も言わなくてもわかってくれる関係から、時には批判されたり、
他人との違いや自分にはないものを確認していく時期に入っていきます。
以前は中学生ぐらいからこの時期になっていましたが、今は高校生ぐらいですね。
自分とは違う価値観に出会い、ぶつかり合いながら本当の親友になっていくのですが、
思春期にこのピアグループまで移行することが、家庭から自立するためには欠かせない重要なステップなのです。
みんなで頑張って何かをするギャングエイジの体験やチヤムグループの体験を十分積み重ねることがとても大切です。


子どもの自立を阻むインターネットの普及

しかし、現在はこのピアグループまで移行できない子達が非常に多いですね。
インターネットのSNSや携帯電話の普及がピアグループへの移行を阻んでいる面があります。
チヤムグループはみな同じ価値観だから相手がわかってくれるし、
何でも理解してくれるお母さんと赤ちゃんの関係に似ています。
自分がどう感じ、どうしたいのかが言えない子がとても多いのです。
「別に!」「わかんな〜い!」という言葉をとても良く聞きます。


モンスターペアレンツ・友達お父さん

かって校内暴力が全盛期だった世代が、今、思春期の子どもたちの親の世代になっています。
そのため、学校や教師への位置が非常に低くなっていることも子どもを取り巻く環境の変化の一つです。
子どもの理不尽な要求でも通ってしまうのです。
友達みたいな物分りのよいお父さんも増えていますね。
家庭の抑圧や壁がなくなり反抗したり、親と衝突する機会も少なくなっています。


思春期の子どもに必要な四つのこと

ひとつめは群れる体験です。
群れることで子どもは自分の順位を知り、自分を見つめることができます。

ふたつめは社会的実験です。
子どもは親の前、学校、友達の前など、いろいろな場所によって違う顔を見せます。
ひとつだけでいいので、安全基地としての居場所をもつことが大切です。
そして、子どもにとっての居場所とは単なる場所ではなく、そこにいる人との人間関係なのです。

みっつめは移行対象の獲得です。
ちいさな子が肌ざわりのよいガーゼやお気に入りのぬいぐるみをいつも手放さずに持っていたりしますね。
あれは、親と離れる分離不安をまぎらわすための、かわりになるものです。
思春期にもこれに変わるようなものが必要なのです。
親でも友達でもない、タテ・ヨコではないナナメの人間関係が必要です。
ちょっとナナメから係ってくれる年上の人とか地域の人とかの存在が重要になります。

よっつめは異性の友人との体験です。
つきあってなくても、異性との人間関係はとても大切です

思春期後期に感じる寂しさ、悲しさ、、怒り、罪悪感、反抗などいろいろな感情や生き方を友達と語り合い、
自分の中にあるものを確認していく作業を通してはじめて、
子どもは家庭から物心ともに自立していけます。おおらかに、いろんな人の力を借りながら、つきあっていきましょう。