NPO法人 緑区子どもサポートセンター
   第38号 平成24年 5月

〜チャイルド・ライフ・スペシャリストとは何か
                  知っていますか?〜


この度千葉県こども病院に勤務されている木村知聡さんのお話を聞くことができました。
木村さんは千葉県では「こども病院」だけにいるチャイルド・ライフ・スペシャリストです。
子育てに通じるお話もありましたのでご紹介いたします。


■チャイルド・ライフ・スペシャリストとはなにか

お医者さん、看護師さん、検査技師さん、薬剤師さんなど病院の中には医療を担う様々な人たちが働いています。
病院に来る子ども達が少しでも気持ちよく過ごせるように、どの方も力を尽くします。
それでも、初めて来る場所で初めての経験をする子ども達の中には、不安や恐怖・怒り・寂しさなど行き場のない感情に押しつぶされそうな時があります。
そんな時に、遊びやお話を通して子どもが本来持つ「乗り越えていく力」を引き出すお手伝いをするのがチャイルド・ライフ・スペシャリストの役割です。英語の頭文字をとって(CLS)とも呼ばれています。

CLSの遂行するチャイルド・ライフ・プログラムは1950年代に北米で遊びのプログラムから発展してきました。
北米では現在95%の小児に関する医療施設にCLSがいるとされ、また一つの病院の中でも外来・病棟・オペ室など、どこでも平等にCLSのサポートが受けられるよう配置が進められています。
日本国内では2012年現在25施設に26人が活動しています。

■どんな仕事をしているか

CLSは医療チームの一員ですが、医療行為は一切行いません。
その為、白衣などのユニフォームの着用ではなく私服で勤務しています。
病院環境に対する抵抗や恐怖心がとても大きい子どもの場合、病院の外にいる人と同じような格好をしている「病院の人」は親しみや安心感を与える場合が多いです。
子ども達にとって病院とは「非日常」です。
非日常と日常、病院と子どもの間に立って架け橋のように二つをつなぐ役割では、私服であることは大切です。

■子どもにとって病院は治療の場だけでない「生活の場」

CLSのサポートは、まず子どもや家族と信頼関係を築くことから始まります。
なのでしばらくは、病気や治療とはまったく関係のない話題で話したり遊んだりする中で、子どものキャラクターや過去の経験、発達段階などの情報を収集します。
その情報を元にその子にあった「乗り越える方法」を一緒に考え、子どもが医療体験を乗り越えていくお手伝いをします。
病気と闘っていても子どもは日々成長していますので、発達や成長を促す遊びも取り入れます。
また、こども病院には保育士もいます。
子どもの成長発達を支え遊びの機会を提供することで、病院の中での楽しい思い出が増えると思います。
CLSは痛みや苦痛を伴う検査や処置に同席して、子どもの心の中が怖い気持ちでいっぱいにならないよう支援します。
薬を使って眠った状態で行う検査では、子どもが寝入るまで寄り添います。
子どもからは「CLSがいると早く眠れる」と言われることもあります。

■医療経験に対するストレスや不安の軽減を目指す心の準備サポート

何をするのか何も知らされずに病院へ来て、訳もわからずに押さえられ身体のコントロールができない事ほど怖いことはありません。
これらの恐怖は、実際の痛み以上に大きな痛みとして子どもは感じるでしょう。
子どもだからわからないだろう、子どもが知ったら余計に怖がるだろう、という大人の判断はせず、その子の発達段階にあった言葉や道具を使って、子どもなりに理解、納得して検査や処置に臨めるようお手伝いします。

例えば手術についてどう話すかという場合です。
玩具の医療資材(実際のものを使用する場合もあります)や人形を使って、手術に関するごっこ遊びを行います。
また、「なぜ手術を受ける必要があるのか」と言う部分に関しても、身体の仕組みを楽しみながら学べるような遊びを通して理解を促します。
子どもが自分の病気や治療と向き合って、前向きに関わっていけるよう支援します。
ごっこ遊びの中で人形を通して役割を演じることで、子どもは自分の気持ちや「受けた」医療体験に対する理解認識を表します。
誤解や想像があれば修正し気持ちを表すことで自分自身を癒していけるよう支援します。
例えば注射の場合、「痛くないよ」と伝えるのではなく、「少し痛いかもしれないけど、〇〇をすると楽になるよ」「他のお友達は、痛いっていうより冷たい感じがするって言っていたよ」などわかりやすく伝えます。
この先も大人(特に病院の大人)を信頼していけるよう、嘘は避けます。

■きょうだい支援

入院している子どものきょうだいは、さまざまな心理的葛藤を抱えています。
家族の生活が入院している子どもを中心に回り始め、生活パターンが変化してしまいます。
CLSはどうしても「二番目」になってしまいがちなきょうだいへの心理的ケアも重要視しています。
一人の人間としてきちんと向き合うために〇〇ちゃんのお兄ちゃんという呼び方はせず、きちんと名前を呼びます。
また、治療が思うように進まず残念ながら亡くなってしまうこともあります。
最後の時間を家族で過ごせるような配慮はもちろんのことです。
外国ではそうしたことは進んでいますが、日本の小児病棟では子どもやきょうだいを援助する体制は残念ながらまだ発展途上です。

■子どもの目線に沿う

病気と闘っている子どもは、病院に来る前には当たり前のようにできていたことをしたくなくなったりすることがあります。
おもちゃを片付けること、みんなで「いただきます」をして食べること。
そんな時に「今、どうしてそんな気持ちになるんだろう?」ということを一緒に考えて、子どもの気持ちに寄り添います。

■ライフはのりこえる力

病院の中では、泣くということは時に「頑張っていないこと」として捉えられる場合があります。
「泣くんじゃない。がまんするんだ」と大人は簡単に口にしますが、例えば注射や採血では「じっとしていること」が一番大切なことなので、「痛かったら泣いたっていいよ」「だけどじっとしていることが大事だよ」と伝えることが大切です。
それは、苦しさを乗り越えるために泣いたり怒ったりすることが必要な場合があるからです。
負の気持ちを持つこと、それも大事。どんな気持ちのあなたも大事ということです。

■チャイルド・ライフ・スペシャリストは何故少ないのか

カナダやアメリカには病棟ごとに配置されています。
まだ日本には人数が少ないです。
それは日本で資格を取る方法がないからです。
資格を取るためには留学しなければなりません。
また、資格を取得して帰国しても、診療報酬に反映されないチャイルド・ライフの業務は、正式な雇用へと繋がらない場合も多いです。

入院している子どもに、親はずっとついていることはできません。
さびしいとき、痛くてつらいとき横にいてくれる存在は入院生活を楽にしてくれることでしょう。
この紙面を読まれた皆さんが少しでもCLSの仕事を理解していただけたならうれしいです。
そして、日本でも資格が取れるように早期の制度の充実を強く望みます。 

      
(まどめ 川本泉美)