NPO法人 緑区子どもサポートセンター
   第36号 平成19年12月

〜なぜ今、子どもや若者は生きづらいのか?〜


9月3日、チャイルドラインの公開講座がありました。
横浜市立大学国際文化部の教授である中西新太郎氏はたくさんのデータや具体例をあげ子どもの現状をお話してくださいました。
中西氏の話される子どもたちや若者の現状は、あまりにも私たちの考える人間関係と違い、初めのうちはなかなか受け入れることができませんでした。
でも、中西氏のお話はすべて実際に調査された中でわかった数字や具体例である以上、私たちは少しでもそれを受け入れ、理解しようと努力しなければいけないと思うようになりました。


■つつましい若い世代の生活

今の若者は消費社会の中で育ち、恵まれているようにおもわれていますが、90年代の後半以降、若者はずっとつつましく生きているというのが現状です。
自動車を自家用で運転しているのは93年の20代の人ならば20%でしたが、現在は7%。
10人に1人も若い人は車に乗っていません。
一番、自家用車を保有しているのは60代です。
また、以前の大学生は卒業旅行によく海外に行ったものですが、今の学生はあまり海外に行かない、あるいは行けない状態にあります。
大人がよく言う「若い人たちは恵まれている。いろんなものがあるから、いいじゃない。」というのは現実の実態とは違っています。親の世代よりずっとつつましく生きているのです。

■自分に自信がない日本の子ども

世界20数か国の14歳を対象にしたユニセフの調査
「死にたいと思ったことがありますか?」「孤独と感じたことはありますか?」という質問に対して、
フランスは世界3位で6.4%、アイスランドが2位で10.3%、1位は日本で29.8%です。
3人にひとりが孤独を感じているのです。
「自分はたいせつだ。」「自分は生きていてかまわない。」など、自尊感情に関わる項目では「そう思えない」と答える子どもの割合が学年が上がるにつれて高くなっていきます。
学校教育を受け、育っていけばいくほど自分には価値がないと感じる成長の仕方をしているのです。
学芸大学が埼玉と神奈川・東京の公立中学163校を調査したデータによると、過去3年間の間にその学校で自殺の相談を受けたことがあるという学校が47%と半数の学校となっています。
生徒同士の相談は75%という数値になっています。

■思春期の人間関係に広がる「身分秩序」

「リア充」という言葉をご存知でしょうか。
リアルな生活が充実しているという意味のようです。
部活で活躍していてキャプテンだったり、成績がよくクラスでもリーダー的存在だったり、特に彼や彼女がいるなど恋愛関係がうまくいっていることが重要なポイントのようです。
この「リア充」を頂点に「派手グループ」「地味グループ」趣味による上下関係など非常に窮屈な「友だち階級制」(スクールカースト)の世界の中で生活している子が多いのです。
ある高校生は非常に丈の短いスカートをはいていますが、「本当はこんなに短いスカートをはきたいわけじゃない。でも、地味な子って見られるのはいやだから。」と言っていました。
孤立してしまう状況をどうやって回避できるか、常に気を使っています。
特にひとりで昼休みお弁当を食べることは死ぬほど恥ずかしいと考えています。
ひとりで食べる姿を誰かに見られないためトイレで食べる「便所飯」という言葉があるくらいです。

■友達は平均64人。4月にはリセット

今の子どもは人付き合いが下手といわれますが、友達の意味が変化していると考えた方がいいかもしれません。
高校生の平均の友達の人数は64.5人というデータがあります。
「メールアドレス教えて」とか「一緒にプリクラ撮ろうね」など、友達は努力して「つくる」ものなのです。
メールがよくくるけど、その子のことはよく知らないなんてこともあります。
ある中学生はクラスの友達と中1から中2になる時、解散式をしてみんなでメールアドレスを消してリセットしたそうです。
その子は「どうして、友達じゃなくなるの?私がおかしいの?」と悩みますが、「人生で本当の友達は1人か2人だよ。」と先生に言われてほっとしたそうです。

■セーフティネットとしての友達

つまり、集団安全保障条約と同じで、友達のセーフティネットをつくることによって自分もその中にいることができる状態を保障しておくのです。
特に女子中学生は7割くらいがプロフを経験しており、プロフで自分の紹介を載せている人がたくさん絡んでくれます。
ただ絡んでほしいのです。
しかし、自分が本音を出したり、自分の辛さをストレートに出すということは無作法であり、なるべく避けた方がいいのです。相手に負担をかけるような煮詰まる関係は避けなければいけないのです。

■せめて子どもにはという、競争社会

就職活動が厳しい今日の社会状況では、きちんとそれなりのことをしてあげないと子どもは世の中に出ていけないんじゃないかと、親たちは不安を感じてしまいます
。幼稚園・保育園に入った時から英語を教えてほしいと希望する親は沢山います。
幼い頃から驚くような運動をこなし、漢字を覚えたり源氏物語を読んだりする「ヨコミネ式幼児教育」が注目を浴びたりしています。
「いつも元気でハキハキ明るく」が教育目標の品川区の小学校には、全国から教育現場を見学に来る人たちが絶えませんが、「いつも元気でハキハキ明るい子ほど、放課後は悪さをする。」と児童館の先生たちは言います。
でも、そんな子どもを見ると少し先生方はほっとするとも言います。
子どもだって疲れていたり、腹の立つことがあったり悲しい時もあります。
なのに、いつも明るく元気な子どもの様子は、まるで就職試験の面接のときのようだそうです。

■新しい競争を促進する政策

自分の将来が描けない、社会の主人公であると感じられないこの社会は、政策的につくられてきた面があります。
大阪府や神奈川県では10校程度の中高一貫のエリート校があります。
一方、年間100人位の中退者がいる高校では4分の3が新人教師や非常勤講師であるという現実があります。
しっかりお金をかけフォローしなければならないところは切り捨てられているのです。

■話すことと聴く文化

人間の関係には向き合う関係、問題解決を中心とした関係もありますが、横に並んでいる関係もあります。
「なにもしゃべらなくてもいい、解決できないことは沢山あるけど、あなたも大変だね。」というふうに、一緒に並んでいることもできます。
人といっしょに、自分もいて生きていられるんだと実感でいるような社会にしていかなくてはいけません。
「話す子とと聴くことの文化」が大切です。
話すことが成り立つには聴く文化が必要で、大人は聴くことができないといけません。
「あなたと私はここにいっしょにいる、大丈夫だよ。」ときちんと受けとめてもらえるような大人の支援がもとめられているのです。