NPO法人 緑区子どもサポートセンター
   第34号 平成23年6月

〜子どもの「あそび」は子どもが育つまちづくりから〜

    嶋村仁志氏 講演より

子どもの成長にとっては欠かせない遊び。しかしそれは時間の流れとともに大きく変化してきています。
NPO法人日本冒険遊び場づくり協会理事である「嶋村仁志」さんの講演を聴く事ができましたので、この紙面を借りて報告させていただきます。


■自分の子ども時代、どこで遊んだか地図を描いてみよう

地図を描くと色々なことが見えてきます。
用務員のおじさんの家ではおやつをもらったとか、親に黙って捨て犬を飼った場所、ここではピンポンダッシュをしたなど町全体が遊び場だった時代。
怖いおじいさんの家や八百屋のおばちゃんが存在していました。人や物、場所、自然との出会いがありました。

その時代の特徴としては、

1 おかねがかからなくても遊べた
2 何でも遊びにした
3 どこでも遊び場にした
4 自然・身の回りの環境や人とのふれあい
5 社会・世相・文化が反映されていた
6 危険なことに挑戦した
7 大人が見たらできなかったことがあった
8 ケンカや怪我、失敗をたくさん体験した
9 明日もきっと楽しいと思えた

子どもは安心する場があって、初めて自分を自由に表現するようになります。

子どもが遊びの天才でいるには、あまり面倒見のいいおもちゃがあってはいけない。
楽しさを自分で作り出そうとする力が欠けていってしまうのです。
面倒見の悪いおもちゃはコミュニケーションの架け橋になると東京おもちゃ美術館の多田館長も言っておられます。
今はどうでしょう。
昔と違うところは「お寺や神社 川や海、道路、空き地、駐車場、マンション」は遊ぶ場所ではなくなったこと、そして一緒に遊ぶ子どもの数が減り、学校の終わる時間も遅い、大人から怒られた時の逃げ場もなくなりました。
そして大人は大人の用意した場所で子どもを遊ばせようとします。

■豊かに遊べる町は豊かに育つ町

イギリスで2007年に調査したデーターがあります。

* 家の周りが危ないと感じている子ども 30%
* 1人で外に出たことがある8〜9歳児 6%
* 家の側の道での遊びが大切だと感じている大人 85%
* 道路にたまる子どもを退去させる法律が必要と感じている 75%

家の側で遊ばせたい大人がいる反面、迷惑だと感じている大人もいるということです。
それを法律で縛ろうとしているのです。 
日本でも子どもの声がうるさいと苦情が持ち込まれます。
主にお年寄りの方だそうですがとにかく気になるのでどうにかしてほしいと言うので、「昔もうるさかったですか?」と聞いたところ、「昔は誰がうるさいかわかっていた。だから気にならなかった」と答えたそうです。
ということは顔のわかる関係があれば良いということです。

■公園は遊びやすいか

公園があるのだから子どもはそこで遊べばいいと大人は考えると思います。
ところで「多少の怪我は子どもの成長に必要」と考える人はどのくらいの割合でいると思いますか?
そう思う人が9割でそうではない人が1割なら今の世の中「遊びの時代」と言えます。
しかしこの反対、怪我はありえないと考える人がいます。誰でしょうか。
市や町の行政職員です。市役所、町役場にかかってくる電話の99%は苦情の電話だそうです。
苦情の電話ばかりでは仕事といってもまいってしまいます。そこでどうするか。
禁止の看板を立てることになるのです。
知り合いの方々に協力していただいて公園などの看板を写真で写してもらいました。

良い子の約束の看板

その1 仲良く遊びましょう
その2 わりこんではいけません
その3 ふざけてあそんではいけません
その4 遊具から飛び降りてはいけません
その5 かばん、マフラーをしたまま遊んではいけません
その6 靴をはいて遊びましょう
その7 運動しやすいかっこうで遊ぼう
その8 火を近づけてはいけません
その9 遊具を乱暴に扱ってはいけません
その10 わりこんではいけません
その11 遊具がこわれた時はおとなに連絡しましょう
その12 暗くなる前に家へ帰ろう

「わりこんではいけません」はなんと2回も書かれています。
よっぽどわりこみに対する苦情が多いのでしょうか?
幼児を持つ母親が「公園はあやまりにいく所とわりきる」と言っていました。
わが子が悪いことをした時に絶妙のタイミングで「うちの子がすみません」を言わないと気まずくなるのだそうです。
どうですか皆さん、こういう公園で遊びたいですか?
その他にも公園ではもう野球はできないですね。
サッカーもドリブルとリフティングだけ危険には2つの面があります。1つはリスクでもう1つはハザード。
リスクは成長に必要な危険で、高いところから飛び降りるや木に登るなどが考えられます。
ハザードは目に見えない危険で大事故につながります。たとえば遊具のボルトが外れかかっている、木のぼりの下にある釘などです。どれがリスクでどれがハザードか。
そしてハザードは何があるか大人も勉強しないと挑戦させられないです。
「世の中の大多数の人は遊びの中では怪我を経験することも大切だと思っている」と言ったら怪我の程度によると言われてしまいました。
危険なことがあったらその場で注意すればすむこともたくさんあるはずなんですが、大人も子どももコミュニケーションをとれにくい、そして子どもは叱られ慣れていないんです。
今はあえて、しかも大人が「子どもだけの世界」をつくらねばならなくなっています。

大人は子どもの遊びの一番面白いところを奪っていないか

プレイパークをやっています。冒険遊び場といって「自分の責任で遊ぶ」ところです。
例えば泥んこになって子どもは遊ぶのです。
ある子は体だけでなく髪の毛まで泥をつけて毛を立てて喜ぶのです。
ドラム缶風呂も子どもが水を入れて入るんですが、目いっぱい縁まで水を入れるんですね。
そして火をたくので沸くのに時間がかかる。
沸いたらなんと3人一緒に入る。
大人はまず黙って入られない。
「水の大切さを教えないと」と思う。
そして「半分の水で沸かしたら効率がいいよ」と言いたくなる。
でも僕たちはこれを言いません。
目いっぱいまでのお湯に3人で入ってザブーンと湯があふれるこの経験がしたいんです。
木工もよくやります。
ベンチなんかも作るんですが、板に足をつけて、出来たと言ってすわるとどうなると思いますか。
横に崩れるのです。
これがおもしろいのです。
失敗も遊びなのです。
どうしたらうまくつくれるか考えるチャンスを奪ってはいけません。
この3人の男の子(写真を示す)中学生、小学生と4歳くらいの子で砂遊びをしています。
どの子が威張っていると思いますか。
この4歳の子が指示してあれ持って来てなどと言っているんです。
2人は言われるのが嬉しい顔をしていますね。
この子がかわいいんです。
こういうふれあいもあります。
ダンボールで家も作ります。
靴箱も作っていました。
花をとってきて飾っていますね。
町の中では採っていい花などなくなっているのですが、ここはできます。
ある女の子が物干しを作りたいと言いました。
作ったらいろんな子が干し始めました。必要に応じて増えていきます。
家、学校と距離のある場所、そして大人と「怒る」「怒られる」ではない関係で遊ぶと言うことが大切です。

「安心してあそぶ」は子どもが育つ町

色々な人があそびについて語っています。
* 遊ぶと服は汚れますが、心はきれいになると思います(木村拓哉)
* 他人の方法で成功するより、自分の方法で失敗する方がましである(ドフトエフスキー)
*うちの子はトトロを100回見ましたというお母さんがいますが、
  観るのは1年に1回くらいにして99回は外で遊んでほしい(宮崎 駿)
* その人のことを知りたければ、1年間会話するよりも、1時間一緒に遊ぶことだ(プラトン ギリシャの哲学者 )
* 遊ぶこと以上に子どもに多くを与えられるものを知らない。
  しかも楽しい。遊びは子どもの人生の質を高くする(クリス・スミス 元英国文化省大臣)

子どもにとって遊びとは「自分の生きている世界を知る扉である」

可愛いと思える近所の子どもはどの位いますか、
とりあえずここを変えていきませんか(嶋村仁志 講演者)

[まとめ 川本泉美]