NPO法人 緑区子どもサポートセンター
   第31号 平成22年9月

〜父親であることを楽しむ生き方〜


NPO法人ファザーリング・ジャパン代表 安藤 哲也

少子化と言われて久しいのですが、一向にこの流れは改善しません。
子育て支援は国を挙げての一大プロジェクト。
子育てリラックス館も支援の一つです。
ではなぜ子どもを産まなくなってきているのか、子育てはそれほどしんどいのか。
そこのところを聞きたくて「安藤哲也」さんの講演会に行ってきました。この紙面を借りて報告させていただきます。


■男性の子育ての悩み

その1 仕事が忙しくて育児時間が取れない
僕は48歳。
3人の子どもの父親で、妻はフルタイム勤務の会社員です。
子どもは0歳から保育園育ちで、4年前NPO法人「ファザーリング・ジャパン」を立ち上げました。
仕事も育児もバランスよくできる環境を創り、PTAの会長や絵本の読み聞かせもやっています。
もちろん最初からできたわけではありません。
自分の親から刷り込まれたものがあります。
自分の中の父親としての基本ソフトのバージョンが古いのです。
僕は妻に育てられながらOSを入れ替えました。

日本の男性の育児時間は一日平均30分です。
家事の手伝いで多いのはゴミを出すこと、でも玄関においてあるゴミの袋をゴミステーションに置くのは単に移動するだけなので正確には「ゴミだし」とは言いません。
ゴミ出しとは部屋の中のゴミを集め、生ゴミも水を切って袋に入れることです。
家事は実に煩雑です。
しかし子育て期の男性の4人に1人が週六十時間以上の超長時間労働をしていて、過労やストレスによるうつ、自殺が急増しているのが現実です。

その2 子どもとどう向き合っていいかわからない
子どもの頃に群れ遊びをしていない。
モノ消費中心文化の世代が子育て期になっている。
子どもに触れる機会が無かったので、
抱っこができない、一緒に遊べない、叱り方がわからないお父さんが多くなっています。
出産前の「母親教室」に夫婦での参加が多いそうですが、
妊婦体験と沐浴指導が主なメニューなのでお風呂に入れることが父親の仕事というイメージにとらわれてしまいます。
もちろん1人でお風呂に入れるお母さんの苦労からすると、助かると思いますが。

我家ではまず妻が1人で入ります。
合図の音で僕が赤ん坊を渡します。
その間着替えを用意し、出てきた子どもを受け取り、身体を拭いて着替えさせます。
出てきた妻に赤ん坊を渡すと今度は上の子2人を連れてお風呂に入ります。
2人を洗って出した後自分も洗って、ついでにお風呂掃除をして窓を開けて出るというのが我家の方法です。

家は妻が働いているので、保育園の迎えは私の仕事です。
上の子どもの頃はお父さんの迎えは少なかったのですがだんだん多くなってきました。
「お父さん」と言って駆け寄って来る子どもを見るのがなんとも言えず嬉しい瞬間です。

日曜日に妻に「たまに子どもと外で遊んで」
と言われて公園に出てくるお父さんがいますよね。
普段忙しいから遊んでいないし、久しぶりに外に出て張り切ったりすると悲惨なことになります。
普段の様子がわからないからやりすぎる、あるいは呆然としている。
子どもはおもしろくないとすぐ言います。
「ママがいい」「お家に帰る」15分で家に帰ると妻が言います。「役に立たないわね」
だんだん達成感がなくなり、ついに休みの日にはパチンコ、ゴルフに出かける事に。
そしてますます子どもとの接触がなくなるのです。

その3 子どもが生まれてから夫婦関係が悪化した
子どもは泣くし、病気はするし、大人の予定など構ってはいられません。
泣きたい気持ちになることもありますね。
その時ママは誰に助けてほしいでしょうか。
そうパパです。

ママが一番腹が立つパパの一言は「手伝おうか」です。
「この現状を見たら手伝おうかと言う前に手を出すでしょう」
「子どもは私だけが育てるものなの」
と、いろいろ不満がたまっていきます。

ママは身ごもった瞬間からスイッチが入る。
あっという間にウィンドウズ7にアップデート。
ウィルスバスターも入れる。
昨日まで飲んでいたお酒もぴたっとやめる。
パパは?
変わらない。差がつくんです。
そのため8回のファザーリング学校を立ち上げました。

ママのSOSが届かないパパたちを圏外パパと呼びます。
まだ日本に7割もいる圏外パパ対策こそ大事です。
情報ソースも意識も古い。だから空気を換えるしかない。
日本は同調圧力に弱いから、周りが育児休暇を取ったり、子育てがおもしろいと言い始めれば変わります。

子どもが生まれてから一度も年休を取らないパパを強制的にキャンプに送り出したママがいました。
キャンプは私たちの究極のプログラムでして、父と子の密度が高いしおもしろい。
キャンプを経験したパパはそれから子どもと一緒にお風呂にはいるようになり、お風呂場から歌も聞こえてくる。
それを聞いたママはもう1人子どもがいても育てられると思う。パパの育児参加が少子化の打開策になります。

■父親が育児にかかわるメリット

母親のストレスが解消されれば、虐待の防止になります。
夫婦関係が良くなれば出生率も上がります。
子どもの社会性が早く身につきます。
生活力、家事、育児は一体化しているから父親の自信がつきます。
しかも仕事で有益な能力は育児でいっぱい身につく。
時間管理能力、問題解決能力、管理職に必要なマネージメント能力等です。

子育てがうまいパパは部下育てもうまい。
誉めて育てる、失敗させて、育む能力が身につきます。
一緒に働いているママスタッフとのコミュニケーション能力もうまくなります。
子育ての大変さを共有できるから「子どもが熱?いいよ早く帰ってあげなさい」と言ってあげられる。
そう言われたママスタッフは、次、仕事が大変な時に残業をしたって上司を助けようと思うのです。
信頼関係が生まれ、辞めずに活躍してくれるようになる。会社の業績も上がる。日本経済にもいいのです。

■パパ力のすすめ

子どもと向き合うことだけが育児じゃない。
現代の父親に必要なことはママを支えることができる「パパ力」です。

遅く帰ってきても子育て24時間営業のママの話を聞いてあげることです。
パパが認めてくれる、話を聞いてくれる、受けとめてくれるだけでママはぐっすり眠れて翌日笑顔で子どもたちに向き合える。それが子どもの情緒を安定させるのです。

■子育ては期間限定のプロジェクトX

主体的に育児を楽しむ男たちを「イクメン」と呼んでいます。
「イクメン」は子どもだけではなくママ、パートナーへの愛と心遣いを常に忘れないと言う定義をいつも入れています。
週末だけ、上辺やファッションとして子育てしているパパは「張りぼてパパ」といいます。

僕たちは地域、社会のあり方に問題意識を持ち、住んでいる社会をよくしていき、子どもたちに渡す活動もやっていくことが、本当の「イクメン」だと言っています。

子どもは未来。
そこに投資しなければ国の力は衰える。
「早くパパみたいなかっこいい大人になりたい」って自然に思わすようなパパを増やしたい。

雑誌のマニュアルやイメージに振り回される教科書どおりの父でなく、笑っている父になろう。
無理することはない。
自分らしく自分らしい子育てをする、それが自然な笑顔をもたらすのです。

そしてパパ友をたくさん作ることも必要な力です。
僕は妻の出産の時に同じマンションに住むパパ友に一晩上の子を見てもらいました。
お陰で妻の出産に立会うことができました。
そうして助け合える関係を築いておくと何かと安心です。
僕の周りには助け合えるパパ友、ママ友がたくさんいます。

父親が変われば家庭が変わる
 地域が変わる
  企業が変わる
   そして 社会が変わる

■ファザーリングの極意6か条

1 子どもができたらOS(父親ソフト)を入れ替えよう
2 義務から権利へ。さらば「家族サービス」
3 男の育児は質より量。イイトコドリ育児をやめよう
4 子育てパパは仕事もデキル。育児で備わる3つの能力
5 パートナーシップの構築 妻の人生は夫のものではない
6 地域活動を通じてシチズンシップを獲得しよう


*NPO法人「子ども劇場千葉県センター」の情報誌「ぐるっと房総」を参考にしました