NPO法人 緑区子どもサポートセンター
   第19号 平成19年9月

〜戦争のあとに残された子どもたち〜


5月26日、佐倉市美術館において、子ども核廃主催の講演会に参加しました。
講師の郡山総一郎氏はフリーカメラマンで「イスラエルの現実」と題した写真でよみうり写真大賞奨励賞を受賞しています。
2004年、イラク取材中に拘束され9日後に解放され、日本中が「自己責任論」でゆれた事件といえば多くの方が、ああっと思い出されることと思います。
私はこの講演後、「人質 イラク人質事件の嘘と実」を読み、私たちが知らされていた報道と現実がいかに違っていたかを知りました。郡山氏が撮った写真のスライドを見ながら知る子どもたちの現実はとてもショックなものが多く、郡山氏の言葉は鋭く胸に突き刺さりました。つたない文章でどれぐらいそれをお伝えできるか心配ですが、アジアの子どもたちの現実を少しでも知っていただければと思います。   (文責・安藤弘美)


■農村に集中する600万発の地雷

今日はカンボジアの写真を見ていただきながら話をしたいと思います。
中東のイスラム圏は日本人には遠い国というイメージがあるので、できるだけアジアの国の現状を知ってもらい、身近な問題として感じてもらいたいのです。
カンボジアはアンコールワットが有名で観光で訪れる日本人も沢山います。これは、地雷があり危険という看板です。
カンボジアにはまだ地雷が六百万発あるといわれています。今でも月に二〜三人は地雷を踏む事故があります。
観光客が沢山訪れるアンコールワットの周辺はほとんどの地雷が撤去されていますので、地雷は農村に集中しています。農村から病院までは近くて3時間。遠い場合は三日かかります。地雷は殺さないことを目的とした兵器です。形もおもちゃのようで子どもが触ったり、踏んで足を失う事故が絶えません。子どもをねらい、次世代を働けないようにし、意欲を失わせ、経済的負担を与えることを目的にしている卑劣な兵器といえます。

■地雷を踏むために少年兵にさせられて

(サッカーを楽しんでいる少年達の写真)

彼の名前はポィです。彼は内戦の時、誘拐され、連れて行かれ少年兵にされました。8歳の時です。そこで彼は地雷を踏まされたのです。地雷を踏まされたというのは、ポイはいつも大人の兵士の前を歩かされていたのです。大人の兵士が地雷を踏んで負傷すれば兵力が落ちるので、いつもその前を幼い少年兵が歩かされ、ポイは地雷を踏みました。前線ではろくな治療もされず、はじめはひざの下まであったポイの足はやがて腐り始め、のこぎりでひざの上から切られたそうです。

■ゴミをひろう子どもたちに自立はあるのか

これはゴミを拾う子どもたちの写真です。7割の子どもが農村から来たストリートチルドレンです。
貧しい農家の口減らしのため、ストリートチルドレンになる子がほとんどです。
多くの子どもがシンナーを吸っているのはご飯より安く手に入り、空腹をまぎらわし、いやなことを忘れられるからです。
子どもたちは物乞いもします。こうした子どもたちにお金をあげることは自立を妨げることになると言い批判する人もいますが、気温40度のアスファルトの上を彼らははだしで歩き、めちゃくちゃ働きます。仕事はコネがないと就けないこの国で、彼らは仕事につきようがないのです。むしろ彼らは自立しているといえるんじゃないでしょうか。ゴミの山は自然発火で常に燃えていて、そのなかで子どもたちはお金に変えられる鉄くずやプラスチックを拾っています。

■アンコールワットの遺跡の傍らで

(工場の傍らで遊ぶ幼児の写真)

アンコールワットの遺跡が点在する北西部は観光ブームでホテルや外国人用のマンションが次々と建設されています。
そのため建材のレンガを焼く窯場が乱立し、そこでは出稼ぎの親が不眠不休で働いています。その傍らでは子どもたちは耐え難い高温と煙の中で放置されています。
ユネスコは大変なお金を使いアンコールワットの修復をしていますが、私はまず人間ありき、人間らしい生活ができるようにすることのほうが大事だと思います。遺跡は朽ちるにまかせればよいのです。
「アンコールワットを守ろう」といのは我々の驕りではないでしょうか。

■ひな壇にすわり指名を待つ少女たち

(ショーウィンドウのようなガラスの奥にひな壇があり、番号をつけた少女たちがすわっている)

これは中国人オーナーが経営する外国人ホテルでその名も「サクラホテル」。日本人客が多くとまっています。こうして少女たちは指名されるのを待ち買春させられるのですが、お客の8割が日本人観光客といわれています。実際私もどこの宿には若い子がいるだの、どこの宿の子は安く買えるなどと話している日本人客を見かけたことがあります。
私もこのひな壇にすわったりもし、一緒に過ごしましたが、一番小さな子は9歳でした。9〜10歳ぐらいの子は、自分のしていることの意味がわからず無邪気でしたが、15〜6歳の子たちの手にはリストカットの痕が無数にあります。
カンボジアは仏教国なので、思春期になると彼女たちは悩み、リストカット・タバコ・薬などにおぼれます。NGOが彼女たちを保護し村に帰しますが、食べれないのでまた戻ってきたり再び親に売られる子もいます。売春をしていたことが噂になれば、家族が村八分になることもあります。おおもとの貧困やこの国の仕組みが変わらないと同じことの繰り返しなのです。
月に500〜800人が売られているともいわれています。私はこの児童労働の過酷な現状を見ながら答えがみつかりません。やめさせればたちまち、彼らもその家族も生きていけなくなります。お金持ちの家に生まれない限りは、この仕組みから抜け出せないのです。

■平和維持軍の現実

これは観光街にある蝋人形館での写真ですが、国連兵士が女を買っている姿が蝋人形で作られています。
国連軍(平和維持軍)の駐留後、売春宿でこの国ではじめてのHIV感染者がみつかっています。皮肉にも国連兵士からエイズが広がっていったのです。アンタックがエイズを持ってきたと、疫病神のように言われています。これが平和維持の現実なのです。国連はエイズの治療薬を無償で供与していますが、それを医師が横流ししてしまうため患者にはいき渡らないのです。高価にはねあがった薬を買えないために死んでいく人たちが沢山います。帝王切開で出産すればかなりの確立で防ぐことができる母子感染も、その費用をつくれないことでHIVはさらに拡大しているのです。

カンボジアのお年よりは昔はお金がなくても、自給自足で生活できてよかったと言います。農業国として穏やかな営みを続けてきた国が、植民地支配・内戦を経て外国から持ち込まれた貨幣経済に組み込まれてしまったのです。

■今も続くイラクやアフガニスタンでの空爆

私はアフガニスタンやイラクにも行きましたが、人々の暮らしは貧しく路上で凍死する人たちを沢山見てきました。
そこに劣化ウラン弾を落とし続けるアメリカとブッシュのいうテロ集団の何が違うのか私にはわかりません。
今も空爆は続いているのです。劣化ウラン弾を落とした3日後に、そのチリが風にのって日本にとどいていることをご存知でしょうか。被害者以外の何者でもない子どもは、それを伝えるすべも知らず、選挙権さえないのです。こんなアメリカの片棒を請け負う政治家にそれを気づかせるのが私たちの責任ではないでしょうか。私は戦争が何を残すのかということをずっと考えていますが、けっして元には戻らないというのがその答えです。

■頑張るのはあなたでしょう!

私はこういった講演をしていろいろなところに行くので、多くの人たちから「頑張ってください。」とよく声をかけられます。
正直いってむかつきます。頑張るのは私じゃない。あなたでしょう!と言いたくなります。私や私より年配の方はおそらく戦場にいくことはないでしょう。でもあなたの子どもや孫の世代がこれから戦場に行く時代になるかもしれないのです。
今、日本は格差社会が深刻化しています。このままいけば、徴兵制にしなくてもアメリカのように仕事に就けない貧乏人が戦場に行くことになるでしょう。そうならないように、全力を尽くすのが私たち大人の責任です。